ハーレクイン入門―このジャンルは「ラブストーリー」に非ず。
たった1日のうちに、ひそやかに大漁であった。
本とかマンガとか辞典とか。
このぶんだと5月の節句にはちまき食べ食べ積ん読と背の丈を競えそること、請け合い。
辞典はともかく、いま読んでいる暇がないのよ。本当に。いや本当に。
ブログを書いている時間があったら読めばいいとお考えか?
何をおっしゃる。何度でも言うがここは積ん読ブログ。趣味なれど優先順位というものがあるでしょう。
ついでに私は女王陛下に仕えるが如く欲望に忠実なたちなので、やりたい時にやりたいことをするのだ。
つまり私の優先順位とは、すべきことから始まるのではなく、やりたいことが頂点に君臨する。そういった仕組みである。
本を読むのも買うのも積むのも好きだが、文章を書くのも好きだ。
このブログはそのすべてを満たしてくれるのだから、やらないでどうするのだ。
前置き兼、弁解はここまで。
以下、私にとって馴染み深いながらも今もって未知の領域、および習得中の分野について語る。
本好きならば、特にごひいきのジャンルが1つはあることだろう。
私の場合は、ミステリー…と即答できた時期もあった。現在は雑食である。
(そういえば「積ん読」なる言葉を初めて知ったのはマンガの「あさりちゃん」だったなあ。タタミさんが「あさりは本なんか枕がわりに積むだけだから積ん読。私は乱読。まあこれもあまりいい傾向じゃないけどね!」とドヤ顔で解説してらした。乱読という単語は積ん読ほど使われていないと思う。雑食のほうが通りがいい気もするが、どうなのだろう。ただ、「雑食」は乱読に比べて受け身の態勢だとも思う)
世の中にはケースバイケースなどと便利な表現もあって、たとえば数年前にちょっと長めの入院をした際、友人にはもっぱらエッセイの差し入れをお願いしていた。
もともとエッセイも好きだが、病院のベッドで読むには非常に良い塩梅であった。
といったふうに、その時どきで「今はこれ!これが熱いの!」といった入れ込み方をするタイプでもある。
猫をお迎えした時はひたすら猫エッセイや猫が活躍する本を読んだり。
一貫して好きと言えるのは「本にまつわる本」かもしれない。ジャンルはどれでもいい。ちなみにこのたしなみの最初はこれだった。
- 作者: ウンベルトエーコ,河島英昭
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1990/02/18
- メディア: 単行本
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卒論の資料とすべく2年次からトライアンドエラーの繰り返しの果てに読了した記念すべき本。
いま思い出してもかなり面白いので、死ぬ前にもう一度ぐらいは読み返したい。
ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』 2018年9月 (100分 de 名著)
- 作者: 和田忠彦
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2018/08/25
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たったいま発見してしまったが、何なのだこれは!
私の努力!約1年半かけた努力が!100分に!?
面白そうじゃないか!くそ!ウィッシュリストに入れてやる!ざまあ見ろ!
何の話だったっけ?
ジャンルの話だ。
さて、この世には一生をかけても読みきれないほどの本が存在し、それに負けないくらいの数のジャンルがあまねく眼前に横たわっていることも、私は知っている。
だからこそ、時々、新規開拓キャンペーンを開催する。ひとりで。
あれは、そう。数年前の夏のこと。
「各社の夏フェスもちょっとマンネリ気味だし、ハーレクインと一次BL(商業BL)の鉱脈を当たってみるかなあ」
と、何故か思いついた。
理由なんかない。完全な「何故か」である。こんなにも正しく「何故か」を使える話なんて、私の生涯にあと2、3度あるかどうか。
商業BLマンガは読むが、ハーレクインはまったくの未踏の地であったため、ネットより書店に行くべきだと考えた。
そして実際に足を運んだ。この出不精な私が。
ハーレクインの棚は、どうしてああも独特の佇まいでいるのだろう。
黒い縦長のスチールシェルフ。白で統一された本屋さんでもそこだけ黒。セクシーさの演出なのだろうか。
そこに並ぶのは、お世辞にも「高そう」とは言えない装幀の数々。加えて独特の感性を伺わせるタイトルたち。
一瞬、ハヤカワ・ポケットミステリを連想するが、すぐに「まったく違う」と思考を改める。蔦屋書店とTSUTAYAぐらいの差異が、そこには確かにある。
それにしても、漠然とハーレクインといっても様々な種類があるようだ。
はたして、何を基準に選べばいいのだろう。
そもそもハーレクインって何?
イメージとしては「男女が出会う、愛し合う、おわり」を基盤としつつ、そこにアラブの小国の王族とか身寄りのないヒロインとか、すれ違いとかすったもんだとか、実は兄妹とか、そういった要素が絡んで最終的にハッピーエンド…普通の恋愛小説とどう違うの?
と、さんざんに悩んだ結果、タイトルで選んだ。
その後BLコーナーに移動して、また途方に暮れた。
商業一次BLの萌え判定ってどこで分かるの?ルビー文庫でタクミくんシリーズでも読んでろってことなの?
いや私は現代の、できれば最新のを読みたいの。
BLが昔ほどタブーとされたくなった、今の作品を読みたいの。
経過は省くが、かなりの長時間、苦悶した挙げ句、タイトルで選んだ。
ハーレクインは読んだ。
後日、また何冊か購入した。
BLは積んだままである。
それでは積んでいるハーレクインをご紹介。
打ち寄せる波のごとく (ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル)
- 作者: マーゴマグワイア,古沢絵里
- 出版社/メーカー: ハーレクイン
- 発売日: 2015/06/26
- メディア: 新書
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計4冊。
これ以前に読んだハーレクインは、確か3冊ほど。
特段ハーレクインを貶めるつもりはないが、はまったというわけではない。
ただ、「ハーレクインとは何ぞや」という、あの命題を解き明かしたいがためである。
3冊の内容はだいぶ曖昧になってしまったが、
金持ちの家の前を歩いていたら新しい家政婦(住み込み)と間違われて引きずり込まれ、あれよあれよという間に恋が始まり、元来が有能な女性であったために重宝され、やがて寵愛に至る。
というのと、
うっかりシリーズものだったが、何やら数年前に納屋を燃やしてしまった兄妹がいて、それをきっかけに家を出たもののパリで再会、互いにどういうわけか兄妹と気づかぬまま恋に落ち同居を始めるも程なくして素性が知れ、泣く泣く別れた数年後に実は血の繋がりがなかったことが証明され、二度目のプロポーズ(別の兄がそのヒロインに恋をしていながら祝福するエンドからその兄メインの作品が翌月刊行)。
というのと、
ロンドン在住のヒロインと上司がマイアミに出張し酒の勢いで狂おしい一夜を過ごすが翌朝から職務上、冷徹な態度を取らなければならない二人が夜になった途端に変貌してひたすら愛を交わす一方、アラブの小国の第四王子(商談相手の一人)の横恋慕が入り苦しい三角関係を経てロンドンで挙式。
というのと、
素敵だと思った彼は離婚歴があり一女を連れているが娘になつかれた縁もありその晩から関係がスタート、娘はヒロインを母にと望んでいるし万全かと思われたが実はその彼こそティーンエイジャーの頃にヒロインに堕胎を強いた男であると判明した以上、受け入れるわけにはいかず煩悶している間に彼が大変な財産家だったり別れた妻がヒロインのかつての親友であったりヒロイン、彼、親友それぞれの両親が全力で後押しをしたりしてヒロインは過去の罪を許した瞬間、更に重大な秘密が明らかになるが(ここを忘れた)ラスト2ページでその展開は手際よく解決され、挙式前夜に熱い夜。
というのと、
ある日、唐突に「あなたはアラブの小国の血を引く最後の娘」と宣言され、同様に「最後の男=王」との結婚をなかば義務化されるがまま国をあげてのロイヤルウェディングの運びとなり砂漠の小国に住まう日々、最初はつっけんどんだった義理の妹(ヒロイン=最後の王族の娘だったはずなのに???)の態度も軟化し退屈だが何不自由ない王宮暮らしを送るがただ一つ夫の心だけは得られない…私がほしいのはダイヤモンドじゃないわ、あなたの愛なのと迫った結果ころりと堕ちて継承者が胎内に宿る(ツンデレ妹=第二王女の悲恋物語は来月発刊予定)。
…あれ?5冊、読んでる?いつの間に?
まあ、ともかくも、数を読んでも「ハーレクインとは何ぞや」の疑問は晴れなかったのである。
特徴は掴めたと思う。
ヒロインは美人、ロンドンないしイギリス南部で生まれ育ち英語のアクセントは純正クイーンズ、有能、難職を容易くこなすが陰ながらの努力を怠ることもないものの大抵はそうした素質、笑顔がチャーミングで人見知りせず毅然としている、アクティブ、ヘルシー、ハイセンス、モテる、けれど恋人や婚約者はいない、理由としては若干男性不信気味、原因は主に過去の恋愛体験にある。
対して、
男はハンサム(イケメンというよりハンサム)、青い瞳(ヨーロッパ系なら)、スーツを着こなす、有能、資産家、母親に優しい、だがヒロインには冷たい、だが高確率でヒロインに一目惚れしている、口下手だけど口説くのは得意、テクニシャン、絶倫、生殖能力を極めている、料理上手、マメ、動物好き、子ども好き、根は優しい、実は可愛い、これらヒロインにとって有利な要素をほぼ隠し心に秘めている、ついでに何かしら隠し事の一つ二つがある、モテるのに婚約者はいない、以下同文。
もう簡単にまとめてしまうなら、
「ハーレクインとはそういう2人による恋愛もの。おわり」
でも良いのだろうけれど、何だろう…何か足りない。
何かもっとこう、あるだろう。もっとハーレクイン的なものが。
熟考はやがて妄想への道を辿った。
中東の小国の王が平民(少なくとも物語開始時点で)のヒロインを一目で愛してしまい、多少強引にも妻にすべく奮闘するその一方で、ヒロインもまんざらではなくハンサム(イケメンではなくハンサム)な彼に惹かれてゆく…そして褥をひとつに。
これがハーレクイン…だと思う…。
というか今さらだけどハーレクインって社名だったのね。てっきり「ハーレクイン」というジャンルがあるのかとばかり。
いや。すでに「ハーレクイン」はジャンルとして確立されていると言っていい。気がする。
単なる社名が1ジャンルを築くとは、これはもう本当に大変なことである。
たとえば「ジャンル:角川」はないだろう。「ジャンル:新潮」もないはずだ。
「ジャンル:筑摩」「ジャンル:岩波」は、もうちょっと頑張ればいけそう。
しかし「ジャンル:ハーレクイン」と言っても、多くの日本人は違和感を抱かないだろう。
「あー、ハーレクインね。うんうん。ハーレクイン。ハーレクイン(笑)。読んだことないけどさ、ハーレクインね(笑)。わかるわかる(笑)」
大体がこんな反応ではあるだろうが(正直なところ私もそうでした)、「ハーレクイン」という一種独特の存在感は灰色(表紙の背景色)のヴェールの向こうにありながらもかなりの印象濃度で浸透し、結果として1ジャンルとして独立している。のではないか。
つまり、
「ハンサムな金持ち(資産家から王族)の男と、美女(ヒロイン像への理解度は低めの模様)が脈絡もなく恋愛をするあの本」
これが日本人にとっての「ハーレクイン」のイメージの基本。
砂漠の小国とか、王子とか、大企業の要職とか、そういったものは恐らくマンガ化されたハーレクインのネット広告の恩恵で後からついてくる。
(一時期、何度みたことか…
ヒロイン「どうかしら、この服。私に似合っているかはともかくとして…」
王(?)「よく似合っている。君には着てほしくなかったが」
ヒロイン「…!」
王「君にはまったく自覚がないのか(自分の魅力について)」
みたいなの。
改めて続きが気になる…!と思い探してみたが見つからない。無料立ち読みをして面白そうだったからウィッシュリストにも入れたはずなのに見つからない。確かヒロインはカメラマンで王?の妹がデザイナー志望。絵柄が綺麗だった。ご存知の方はご教授いただければ幸いです)
とりあえず、自分が読みたいものは、そういうものだと分かった。
「石油の恩恵で何とか生き残っている砂漠の小国の王族(男)と、ヨーロッパ出身のヒロインのラブストーリー」
恋愛もの、ましてやハーレクインに脈絡?
そんなものは飾りです!
読書家のえらい人にはそれが分からんのです!
しかし、いざ探すとこれがなかなか見つからない現状。
(しかもちょうどマイハーレクインキャンペーン第一弾のタイミングでハーレクイン社が吸収合併…されたはずなのにさも元気に生き残っているかのような振る舞いは一体どういうことだ?)
探索しまくっているおかげで、ハーレクインにも様々な種類があると学んだ。
ハーレクイン・ロマンス、ハーレクイン・イマージュ、ハーレクイン・ディザイア、ハーレクイン・セレクト、ハーレクイン・ヒストリカル・スペシャル…
ハーレクインの専門サイトはこれだけでもなかなか読みごたえあり。
それによれば「ハーレクイン」の語源は「中世ヨーロッパの道化役者」にあるらしい。…うん、道化?…お楽しみを提供するからかな。
このサイトのみならず発信しているwebマンガのサイトを巡ってみてもハーレクインをマンガ化した作品は多い。
(なんとあの折原みとも作画を担当している。一昔前は少女マンガ家はBLかレディースコミックに流れる傾向にあったがハーレクイン…レディースコミックのくくりと言えなくもない?)
まだ上手くまとめきれないので、下手くそにまとめてみるが、日本の少女マンガを成人向けにして、内容はコンパクトに、かつアダルト要素を取り入れつつ、日本人お得意の魔改造を施した作品群が、「和製マンガ化されたハーレクイン」なのだろうと推測する。
多くはイギリス人が著者だが、(というか書くにしろ読むにしろアメリカ人向けではない。かな。と。何となく)感性があまりかけ離れてはいないため、日本の側に受け入れる土壌があったのかもしれない。
活字のハーレクインとマンガのハーレクイン、どちらが売れているのだろう。
そういう質問なら「本屋の森のあかり」の潮見さんが即答してくれそうだ。
私は「和製マンガ化されたハーレクイン」よりも、まずは原作を読みたいので、機会があればここぞとばかりに探し続けている。「砂漠の王と庶民のヒロインの王道ハーレクイン」を。
見つからないのならば、まず私の認識を改めることになろう。
だけど絶対あると思うんだよね…近いのはあったんだから(何かちょっと違ったので納得できていないだけ)。
そんな経緯あって、上の4作品を購入し、積んでいる。
何しろキャンペーンなので、期間が過ぎればいったんお休みということで、積むことになる。
が、こう改めて眺めると面白そうなのばかりだよね…期待度は増すばかり。
『砂漠の富豪の寵愛』
あんまり富豪すぎてもアレなのだが、最も期待に答えてくれそうな気配。王族じゃなくても妥協できる、かもしれない。ヒロインが王族の血脈かもしれないし。
『砂の檻』
もうタイトルからしてぞくぞくするじゃないか。きっと砂の世界に閉じ込められたヒロインが王の愛に飼いならされて…ハーレクインはヘタレ男が多めだから(これまで読んだ感触としては、そう)どうかなあ。砂の国の王族がヒロインの心という檻に閉じこめられる話なら糖度高そうでいいね。
『メイドを拾った億万長者』
早くもタイトルからしてわくわくする。億万長者なら雇えよっていうことではないのだろう。きっと。たぶん。メイド側に事情があるに違いない。砂漠度と王族度は望めまいが、あと私の求めるメイド観からも逸脱することだろうが、何がどうなってこういうタイトルになるのか気になる。
『打ち寄せる波のごとく』
ヒストリカル。ここポイント。騎士道精神と愛欲のはざまで揺れ動く男の心。惜しみなく見せてくださいまし…!ランスロットみたいに何だかんだと人妻への愛だったら…切ないねえ…それこそハーレクインだねえ…現実だったらクソだもの。
以上、4冊のハーレクインを積んでいるが、これを楽しく読了しても私の望むハーレクインは無いと言うのならば、その時は最終手段として自家発電するほか術はない。
しかし、ここでまた疑問が。
はたして「ハーレクイン」を日本人が書くことは可能なのか。
出版を目的としてではなく、「ハーレクインたるもの」を書くということそのものが、日本人にできるのだろうか。
砂漠の小国の王とかどうとか言う前に、「ハーレクイン」にふさわしいセンスは必須だろう。
イギリス人、全員がハーレクインを書けるわけでもないし、日本人だって誰もが私小説を書けはしない。
すると結局「ハーレクインとは何ぞや」という、あの命題に戻ってしまい、それを知りたいならば、読むしかないのだ。
そして学ぶしかないのだ。「ハーレクイン」という文法を。
長くなったので、商業BLについては次回。
(ハーレクインについてもまだきちんと語りきれていないので、後日、リトライしたい)
ところで、最後に。
けっこう人気を博していた(まだ博している?)、これ。
積んでから読んだが、
「猫はともかく、人間たちの恋愛模様がハーレクインぽいな」
と思ったら、吸収合併後のハーレクイン社がらみという出版事情だとか。納得した。
続編も色々と出ているようだが買ってもいないし積んでもいない。
いずれ買って積もうと画策はしている。
港港に飼い主をつくるアルフィーさんのなさっていることは積ん読の行為に似ているよね。いざというときの蓄えという意味で。