積むべきものは着物か、マンガか―罪深き着物deピュアライフマンガの感想。
文庫を1冊読み終え、マンガを1冊読み終え、文庫とマンガを1冊ずつ読みはじめていたらアマゾンさんから「金田一少年37歳の事件簿3巻を送りましたよ~発売日たる明日に届くよ~」とのメールが入った。
ついでに昨日は初めてpixivのBOOTHを利用し、高河ゆんの同人誌「日の出さんで朝食を」を買った。同人誌を買うの、実に15年ぶりぐらい…?
これは2008年に高河ゆんが出したエッセイ同人誌の書籍版。
断固とした紙派の私だが、ここは我を忘れたというか、我を捨てたのよ。ガンダム00関係ならばやむなし。どころか、たやすいものよね。呼吸をするようなものよね。
そして当然のようにまだ読んでいない。スマホの中で積んでいる。
これが紙だったなら舐めるようにして百回ぐらい読んでいたに違いない。いやあ残念。
さて、昨日、積ん読の中から読み終えたマンガの話。
着物、和服好きさんなら読んで損はしないシリーズ。
舞台が神戸から京都にかけての西のあたりで、ほぼ毎回どこかしら実在する場所へ出かけるので、旅行好きさんも楽しく読めそうだ。
私はというと、着物が物語の軸になっていると聞いて読みはじめた。
確かこの1巻が出たころ、ちょうど食事マンガがブームになってしばらく経ち、やや飽和状態に片足を突っ込みはじめていた、そんな時期だったと思う。
私はもともと本でもマンガでも「一芸入魂もの」が好きなのだが(バレエものとか、演劇ものとか、もろもろ)、「着物マンガ」というのは、あるようであまりない。
森薫あたりがそういうのをやってくれたらすごいことになりそうだな…と今ふと思った。
現代よりも明治あたりのカフェーの女給のイメージで描いてくれたらのめりこむだろうなあ、などと想像していて、「待てよ、それどこかで読んだな」とシナプスがぴきぴき活動してくれた。
これだ。
「舞妓さんちのまかないさん」の作者さんですよ、と言えば通じやすいだろう。
残念ながら私は3巻ぐらいでアーリーリタイアしてしまったが(高いのよね、これ)、連載中、「森薫を模倣しようとして失敗している」との評が少なくなかった。
しかし、私はそうは感じなかった。単純に「雰囲気マンガ」という、うまく説明できないけれど「森薫的なもの」がジャンルとして確立しはじめたシーズンと重なっただけだと思う。
「ちろり」を森薫のパクリだ!なんて言っていたら、
これなんか一生読めないだろうなあ、もったいない。すごくわくわくするのに。
(画集みたいな作品集だから過ぎた願いだけど、続編を出してほしい)
(と思ったら「百貨店ワルツ」の2018年版カレンダーならあったのか。時よ戻れ)
毎回、話がずれまくるのはこのブログの仕様です。ご了承ください。
さて、「恋せよキモノ乙女」。
とにかく絵柄が可愛い。
主人公は20代なかばか、もう少し若いぐらいの女の子。職業はどこかの企業の受付。
休日はOLからキモノ乙女に変身。
1人でもおいしいものを食べに行ったり、面白い本を探しに行ったりする。
やがて気になる殿方と出会い、逢瀬を重ね…という、ストーリーとしてはベタ。
恋愛マンガの王道。
3巻では三角関係っぽい展開になっている。3巻だけに。
それでも飽きが来ないのは、やっぱり着物の力が大きいだろう。
舞台となるお店を忠実に再現しまくっても、恋愛がどれだけ凄惨に盛り上がっても、これが洋服だったら「先は読めるな」と1巻の3話あたりで閉じてしまいかねない。
「今の季節ならこの模様で、行き先があそこだからこの帯で、それに合う帯留めならこれで、なら帯揚げはこの色で」
と、実際に外出するまでの時間が長いのに、その部分がとても楽しい。
加えて、恋愛感情が募ってからは、
「これを着ていったら可愛いと思ってくれるかな」
と想いを馳せずにいられなくなるヒロインがとてつもなく可愛い。
洋服でも同じことを考えはするだろうけど、それが着物だから、やはり読む側も気合いが入る。
「大丈夫、絶対に可愛いから行ってこい」
と素直に背中を押したくなる。
ちなみに2巻では、恐らく永遠の現代的課題「デートに和服はアリかナシか」にスポットが当たった。
ここをちゃんとやってくれたのはマンガとして快挙だと思う。
もちろん「アリ」にしないとこの話は成り立たないと分かっているけれど、ちゃんと問題意識として差し出し、「相手を思いやらないと何を着ても可愛くない」と結論づけることで着物と恋愛の関係図も出来上がった感がある。
更に3巻では「着物で告白しておけばよかったかなあ」と泣き笑いをする場面がぐっと来る。
主人公が着物をまとうことの必然性が回を追うごとにどんどん増してくる。
このマンガの面白さは、実は絵柄や物語、着物の選び方ではなく、そこにあるといっても過言ではない。
主人公にとって着物がもはや血肉なのだということがはっきりと伝わってくる。
この主人公が「いまどき『なかよし』でもここまでじゃないのでは?」と思えるほど純粋でいられるのは、細胞のすみずみまで生き生きしているからなのだ。
一話読み終えるたびに「着物いいよねえ…着物、着たい…」と陶然としつつもじたばたする。
というのも、わたくしめ、5年ほど前に唐突に着物に手を染めたことがある。
それまでも着物に興味はあったのだが、なかなか実際にどうこうする機会がなかった。
成人式もワンピースを着て出席した。あの頃は観劇が趣味だったので、フォーマルなワンピースの方がお役立ちだと判断したのだ。実際、虫に食われるまでの数年間、数多の戦場(劇場)を共にした。
大学の卒業式は袴にした。本当はハイカラさん風に着こなしたかったのだが「TPOをわきまえろ」と一蹴されてしまった。
その後、友人の結婚式でも洋装が続き、気づいた時には未婚の友人がいなくなっていた。
もう行かず後家なら人生は好き放題にやるのだ!と決め、まずは無難に浴衣から始めた。
慣れた頃に着物(一重や袷)に挑み、一応、着付けはできるようになった。
(びっくりするほどお安い着物がこの世には存在するのだと、このころ初めて知った。というか、私の中の着物のイメージが勝手にお高すぎたのだと思う)
今はどうかと言うと、まったく着ていない。
何故かというと、猫をお迎えしたから。
「恋せよキモノ乙女」の猫さんはおりこうに主人公の着付けを見守っているけれど、うちのおてんば猫は帯締めを見ただけで大歓喜。無理。ついでに編みものもほぼ不可能になった。可愛いけれどバカ猫め…でもかわいい。
さておき、名残として、冬はルームウェアの上にパーカー、ズボンに重ねて袴風の巻きブランケット、その更に上に羽織、というスタイルがデフォ。夏は甚平。レディースも着るが、だらっとメンズで着流すこともある。
最近あたたかくなってきたから、そろそろ作務衣の出番かな、と考えている。実は買った途端に冬になってしまったので、まだ袖を通していないのだ。
そして羽織でも甚平でも、和のものを着ると、「着物、着たいなあ」「あの半幅帯、好きんなんだよなあ」となり、このマンガに追い打ちをかけられる。
おてんば猫も少しは大人になった。と信じ、また着物に再挑戦しようかとも考えている。
5年前に和服にはまってから洋服をほとんど買わずにきたので、Tシャツにパーカーにサルエルぐらいの服装でないとピンとこないのが実情であったりもする。
私はそもそも環境的に和服を着ることができなくなった情熱を「恋せよキモノ乙女」に向けたようなものだが、その逆ルートもあるだろう。
このマンガを読んで着物に触れる人が増えたら、と作者と監修担当者はきっと願っている。
3巻でも出てくるデニムの着物なら安価だし、家洗いできるし、何しろ馴染み深いし、柄がないぶん練習用にちょうどいい。
今ならオフシーズンだから浴衣はもっと安く手に入る。うまくやれば着物風に着ることもできる。たとえば半衿をつけるだけでも、充分それっぽくなる。
「着物って敷居が高い」と思っているそこのあなた。
まずはこのマンガからどうぞ。640円ですよ。
ついでに、3巻で私がいちばん惹かれたのは、撫子の着物。
半衿も素敵だし、珍しく帽子をかぶったりバッグが今はやりの星座モチーフだったり、ちょっと垢抜けたな、という印象。
でもやっぱりこの水玉と波千鳥の半衿がいいなあ…。私の市松格子とフラミンゴの半衿…出番をあげたいなあ…。
新刊情報を見落として上に1ヶ月ほど積んでいたわけだが、積むのは着物だけで充分よね、と我ながら思う。着物もマンガも積むようでは何のための人生か分からなくなる。積むべきではなかったね…。積んでいたのを手に取って偶然にも裏表紙が目に入り、「同じ柄で姉妹で和装と洋装なんて粋だわあ」とうっとりした(このお姉ちゃんじゃ補正必須だよな)。というかこのお姉ちゃんの細ベルトを半幅っぽい帯にうまく巻きつけて帯締めがわりにして、お姉ちゃんが山ほど持ってそうなスカーフの中から透け感のあるアイボリー系のものを畳んで帯揚げ風に挟み込む…とか…どうだろ…と想像が止まらなくなるからこれを積む時は裏表に気をつけねばならない。ついでに帯(本の方の帯)を見て改めて思うんだけど銀座結びまでマスターしてるってすごいな。ああ着物、着たい着たい。着たくなるから読むべきか積むべきか、もうどうしたらいいのか誰か教えて。