伊集院隼人氏の平穏な食卓―XYZで終わらない感想
分かりづらいことこの上ないと承知で、積ん読リストを更新。
何が分かりづらいか。場所である。
タイトル下のナビゲーションバー(と言うんだっけ?)にある「BOOKLIST」にリンクしてあるのだが、どこにもそんな説明を書いていないので分かりづらいどころか存在を知られることも皆無であろう。
毎月のまとめと同時に更新する予定でいる。その際、崩れた本に打ち消し線を引き、新たに積まれたものは色つきで追加される。
ちょこちょこご報告している購入状況と異なり、「月末、ないし月あたまでの積ん読上リスト」なのだが、こう書いても本当に分かりにくい。
「BOOKLIST」ではなく「TSUNDOKULIST」にでもしておくかなあ。
ちなみに「MONTHLY」は購入状況。もっと分からないぞ。
このあたりは徐々に改善していく。と自分のためにメモ。
さて、本日はマンガの感想。
CITY HUNTER外伝 伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常 1 (バンブーコミックス タタン)
- 作者: えすとえむ,北条司
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2019/01/19
- メディア: コミック
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最初にこの本の存在を知った時、真っ先に思ったことが、
「まさか北条司、亡くなってたの!?」
だった。
たいへん申し訳ありませんでした。ご存命でいらっしゃいます。
いや、ほら、あの、なんというか、作者以外の手になるスピンオフってそういうこともあるじゃない。「ヤングブラックジャック」とか。
その後で「CITY HUNTER、映画化するんだってよ」と聞き、ああ、なるほどと納得した。
一種の番宣なのね、と。
ちなみにその時点で、その映画とやらはジャッキー・チェン的なアレだと勝手に思いこみ「人は何故、同じ過ちを繰り返すのか…」と頭を横に振ったものだった。
もう本当にごめんなさい。
まさかテレビ版キャストでの新作アニメだなんて…!
私よ、ゲット・ワイルド・アンド・タフ!
ちょっと映画館いってくる!ぎりぎりやってる!ついでに「ボヘミアン・ラプソディ」も観てくる!
と言いつつ、軟弱者ゆえどちらも円盤で拝むことになろう。
「CITY HUNTER」ならばそれくらいの価値はある。間違いない。特典も気になる。
円盤といえばガンダム00舞台版とかナラティブとかどうしたものかと思うが「CITY HUNTER」は仮に映画館で観ても買うと思う。
だって「CITY HUNTER」だもの。
というくらい一片の文句もなく「CITY HUNTER」が好きな私。
当然ながらファルコンも大好きだ。というかファルコンがすごくすごく大好きだ。
もちろん冴羽もかっこいいが大人になるとファルコンが可愛くてしょうがないのよね。
いや、リアルタイムでも「ファルコンいいなあ~」とほっこりしていたが、なにぶん文字どおり中2の14歳だった時分には、
「少女マンガのラブラブより冴羽と香みたいな信頼関係がいいよね…」
と友と真剣に語っていた程度に冴羽派だった。
(それによくよく考えなくても冴羽と香もそれなりにラブラブというか、下手したら少女マンガよりよっぽどピュアピュアじゃないか。と、やはり長じて気づく)
ファルコンはコードネームの他に本名があったり、冴羽ほど謎めいてなかったり(ウソが下手だから)、バイオリン少女の足ながおじさんだったり、猫が苦手だったり、絶妙な一線でロリコン疑惑を避けつつ美樹とくっついたり、最後のほうでミックに持ってかれそうになったり、トラップの名人なのに擬態は致命的だったり、とにかく死にそうで死ななかったり、喫茶店だったり、エプロンだったり(サイズ的に美樹さんのお手製?)、背中で語らず赤面で語ったり、何しろあの外見で天然ギャグかましたり、とにかくチャーミングなのだ。
「かっこいい主人公」向きではない。
この「伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常」でも、相変わらず彼は「かっこいい主人公」ではない。
「かわいい主人公」である。
ファルコンかわいい。ああファルコンかわいい。
もうこの表紙のファルコンパフェからして可愛いじゃないか。こんな喫茶店あったら定期券を買って埼京線で通いつめるわ。
野上ブレンドもがぶ飲みするわ。冴子さんが来て美樹さんと2人でファルコンを囲むまで居座るわ。
といったふうに、この作品は、「喫茶店にいる可愛いファルコン」が主役だが、一方で「新宿で活躍するファルコン」もしっかり描かれている。
ただし、「CITY HUNTER」のようなバズーカを爆発させる世界ではない。
歴戦の気配をほんのり漂わせつつも、ごくごく平和的な方法でものごとに向き合うファルコンの顔が前面に押し出されている。
「喫茶店でくすぶってるファルコンなんてないわ」とお思いかもしれぬそこのあなた、損してらっしゃいますよ。
だってもともとファルコンは、あたたかく優しい人間として「CITY HUNTER」本編でも描写されている人物だ。
本編の時点で喫茶店に配置させたのも、いかにも無骨で不器用そうなファルコンの対人スキルが実はかなり高いからこそだろう。
香への接し方を見ても、彼の他者への態度はどうしても笑顔を誘う。
外見とのギャップのせいでもあるが、それがファルコンの本質でもあるのだと思う。
根底にある優しさや情の深さは冴羽も同様だが、それこそ本編で描ききった感がある。
冴羽よりずっと分かりやすいキャラクターであるファルコンを、もっとあざやかに、かつやわらかく動かしているのが、この「伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常」。
マンガ化をえすとえむが、というのはどういった経緯があるのか寡聞にして不明だが、良い人選だなとありがたい気分でいっぱいだ。
(なお、表紙には「漫画、えすとえむ」「キャラクター原案、北条司」とだけある。「作画担当、えすとえむ」ではないということは、北条司はこのアナザーストーリーに一切関与していないと考えていいはず。Gガンダムに富野由悠季がタッチしていないのと事情は同じだろう。たぶん)
今作に関して「美樹さんはもっと綺麗」とか「北条司のように女性を美しく描けていない」といった感想もあるようだが、そりゃ北条司レベルの作画は誰にもできんだろうよ…ましてや「CITY HUNTER」のフィールドで。
私は美樹さんも、ちらっと見えた冴子さんも、えすとえむ風に噛み砕いた印象がここちよいので、何の不満もない。
それに比べると「ファルコンはきっと誰が描いてもそこそこファルコンっぽくなるんだろうなあ」という新たな発見があった。
しかし、それも外見の話。
ファルコンのファルコンっぽさ。これを描写するのは容易ではないだろう。
えすとえむはそれを見事にやってのけている。
ファルコンのユーモラスなところ。
何をやらせても「あと一歩」な感じのところ。
優しすぎてちょっと損をしているところ。
どうこう言っても美樹に甘いところ。
新宿をホームにしているところ。
バブルの話も、猫の話も、ボランティアガードマンの話も、どれも「あのころの新宿」と「変わらない新宿」に、ファルコンはいる。
新宿といえば「CITY HUNTER」のアイコンそのもの。
それを「現代のファルコン」の目線で眺めると、「CITY HUNTER」とも冴羽ともまた少し違った景色が見えてくる。
特に、
「たとえゴミひとつない綺麗な街になっても、ひとりで食事をする子どもが多い街を俺は美しいとは思わない」
といった台詞に、ファルコンにとっての「新宿」が強い輪郭をもって浮かび上がってくる。
「CITY HUNTER」の「新宿」が「生き延びようとして爪を研ぎ続け必死になって生き残りつつも冬の寝床のように離れがたい街」だとしたら、こちらはもう少し素朴に「どうやってでも生きていける場所はあるのに孤独は消えきっていない、でも愛すべき人たちと育んでいくゆりかごのような街」なのだと思う。
そう考えると、ファルコンが喫茶店を営んで食事を出していることにも、えすとえむは新しい意味を与えたとまで言っていい。
あの頃より老いた人も、悲しんでいる子も、故郷から離れている新卒者も、ファルコンの店で飲んだり食べたりしている。
美樹が懐かしんでいるように、ファルコンは食をとても大切にしている。経験則としてそれが生きる基礎だと知っているからだろう。
となると、「CITY HUNTER」で冴羽がやたらと食い意地が張っていたのも、根っこでは同じことなのだろうなあ。
ただし、ファルコンはこの作品で「食を提供する側」としてすっかり定着している。
「新宿は餌場」だったのが、時を経て「回復の場所」になったのだと思うと、やはり愛おしい。
賛否両論のある作品とお見受けするが、私は心からの賛辞を贈る。
ファルコンが好きな人にも、「CITY HUNTER」のファンにも、今回の映画化で初めてこの世界にふれた世代にも、ぜひ読んでほしい。
2巻を心待ちにしている。
ところで、先に書いた「本編作者が亡くなっているスピンオフ」って掘り出し物が結構あるよね(この作品は本編作者さんご健在です。繰り返します。ご健在です)。
ヤングブラック・ジャック 14 (ヤングチャンピオンコミックス)
- 作者: 大熊ゆうご手治虫田畑由秋
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2018/12/20
- メディア: コミック
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(あっ、積んでるのに15巻の予約が始まってる…!)
Dr.キリコ ?白い死神?(5) (ヤングチャンピオン・コミックス)
- 作者: 手塚治虫;藤澤勇希;sanorin
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2019/01/18
- メディア: コミック
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(積んでるけどなんでキリコすぐ終わってしまうん?)
私は読んでいないが「PLUTO」もそうか。やはり手塚治虫作品って、マンガ家さんにとってはいろいろと黙っていられない素材なのだろうか。
作者さんが亡くなっていないスピンオフといえば…。
読んでいない。何故、どうして、さとうふみやの名を連ねておきながら作画を担当しなかったのか…。
金田一少年の事件簿 特別編 優雅なる名探偵 明智健悟!! アンコール刊行 (講談社プラチナコミックス)
- 作者: さとうふみや,天樹征丸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/12/17
- メディア: コミック
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金田一少年の事件簿 特別編 明智少年の華麗なる事件簿 (講談社プラチナコミックス)
- 作者: さとうふみや,天樹征丸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/28
- メディア: コミック
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このへん、新作をお待ちしております。
(私が持っているのはコミックスだがアンコール刊行って素敵ね。しかも明智健悟!!って仲間意識を感じるわあ)
スピンオフじゃないけど作者がご存命で御自らリメイクした作品も。
ちょっとだけ読んだけど、うん、ええと、マンガ家さんの絵が変わるのはしょうがないことだわね。
これに関しては元祖の初期の絵が好きすぎたんだろうな…。
カル=スが好きだったのに、出番が回ってきた頃にもう絵柄が変わっていたっていうほろ苦い思い出。
これは良かった。完結しただけで良かったとも言える。主人公の父親がイケメン化していたのもポイント高し。
あと「作者、死んだの?」といえば、田中芳樹の『アルスラーン戦記』が新たにマンガ化、アニメ化され、原作小説が再開されて信じがたいことに完結し、『銀英伝』まで改めてマンガ、アニメ化された時はかなり本気で「余命宣告を受けた…とか?」と心配したよ!ごめんなさい!でも新作も面白そうではあるんだけどどうか『創竜伝』とか終わらせて!あと『アルスラーン戦記』の外伝は?外伝やるんじゃなかったの?完結したから満足しろっての?ああ満足さ!第二部のヒルメス戦記が最高でした!
ついに来た、「何故もっと早く読まなかったの!私のバカ!」と叫びたくなる一冊。
実際のところ、これが映画「CITY HUNTER」の番宣かどうかは分からないが、番宣だとしても何の問題もない。とにかく面白いから。
特にリアルタイム世代は寛大な心で読めるんじゃないだろうか。だいたい40代だろうし。
そうでなくてもファルコンというキャラクターがもともと持っている人間くささが存分に活かされ、かつ新たな魅力を増しているぶん、食わず嫌いをすればするほどのたうち回る結果になること請け合い。
ただ積んでいただけの私でも「やっちまった」と歯噛みするくらいだから、そこは保証する。
特に第一話がいい。たとえここで引き込まれなくても最後まで読んでから戻ってみると効果抜群。うっかりすると泣いてしまう。
「CITY HUNTER」(積んでません)、読み返したくなった。
シティーハンター XYZ edition 1 (ゼノンコミックスDX)
- 作者: 北条司
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2015/07/18
- メディア: コミック
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(全巻購入特典、気づいた時には3日前に注文が締め切られていたよ…チープなスリルに身を任せすぎた…)